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日本第四紀学会賞受賞記念講演会

第四紀通信 原稿(案)印刷されました
2014年2月2日、日本大学文理学部3号館において、日本第四紀学会賞受賞者講演会が行われた。講演者は、岩田修二先生(首都大学東京名誉教授)、陶野郁雄先生(山形大学名誉教授)であった。
「土の四方山話、理学・工学それとも理工学」陶野郁雄
陶野郁雄先生は、東工大の助手をかわきりに、公害研究所(現:環境省環境研究所)の地盤沈下研究室の室長として21年間勤務され、その後山形大学理学部の教授を勤められた。ここでは、当日の講演の一部と、現地調査でのエピソードを紹介したい。

講演から

今日では常識的であるが、陶野先生は、土の性質は同じ粒度組成でも年代とともに間隙比が変化するということについて、はじめて定量的な関係を明らかにした。この業績により、年代と粒径がわかれば、ある程度の物性を推定できることになった。


図1 地質年代と間隙比の関係
また、新潟県六日町など、長期間の地下水の揚水量と地盤沈下量の関係について測定整理し、融雪のための地下水使用が地盤沈下の原因であることを証明した。また、自動繰り返し圧密試験装置を使用して実験を行い、そのメカニズムを明らかにした。

図2 地下水のくみ上げ量と地盤沈下の関係1)
陶野先生は、地盤工学の世界に第四紀的な見方を紹介するとともに、第四紀学の世界に工学的な見方を紹介してくれた先生である。

陶野先生との出会い

陶野先生は、地震時発生直後の機動的な現地調査の草分けでもある。地震が起きる前から、車に積み込む持ち物から連絡先まで細かい調査マニュアルを作成するなど、何事においても準備を徹底していた。
1983年日本海中部地震の後、第四紀学会で陶野先生の緊急現地調査の講演があった。津軽半島車力村のパラボラ砂丘の内部で直径7mの巨大な噴砂孔が形成され、噴砂は電柱の高さ近くまで吹き上げたのだと言う。


図3 車力村の巨大噴砂孔(陶野撮影)2)

周囲の砂丘の地下水位が高く、中央の窪地表面が不透水性粘土で覆われ、地下水が被圧しやすい状況にあった。そこに地震が発生し液状化、被圧地下水とともに土砂が一気に噴き上げ、巨大噴砂孔が形成されたらしい。にわかには信じがたい現象である。土砂移動現象の発生条件がよくわかっている地点で、イベント後に形成された地層を観察することは、過去の堆積物の観察をもって事実認定をしていく第四紀学にとって、重要な調査である。
私も、1985-86年の現地調査に参加した。地震から数年を経て噴砂孔は埋め立てられ、位置は判然としなかった。初年度は巨大噴砂孔の位置を写真とトレンチで突き止め観察記載した。次年度は地下水面下に達するような矢板を打ち込み、わき出す水を排水して液状化の発生領域を、直接観察を行った。まさに工学と理学の融合した調査であった。陶野先生は強力なリーダーとして地主との交渉、ユンボの手配、各種申請など、精力的にこなしておられた3)
また、こんなこともあった、0.25φ間隔の篩を使用した砂の粒度を多数行い、分析結果を整理していくと、どのような堆積物でも、いつも特定の篩上残査の割合が多くなるという傾向が認められた。陶野先生は、篩の目の開きを直接測定する装置を設計特注し、篩の目の開きの実測を行った。はたしてその実測値をいれてグラフを書き直してみると、重ねた加積曲線上の怪しい階段は見事に消えていた4)

工学的なものの見方

このように陶野先生は、常に定量的で実証的であり、ものごとの本質にアプローチする姿勢として、非常に勉強になったことを覚えている。
日本第四紀学会賞おめでとうございます。
(千葉達朗 記)



※図1と図2は、当日のPPTより

引用文献

1)陶野郁雄(1997)新潟県上越市地盤沈下成城と新しい地番沈下観測システムの開発,国立環境研究所報告,135. http://www.nies.go.jp/kanko/kenkyu/pdf/972135-1.pdf
2)http://www.city.yokohama.lg.jp/somu/org/kikikanri/ekijouka-map/q-and-a.html
3)液状化層の堆積構造に基づく液状化深度の推定に関する研究(研究課題番号:60020044および61020037)科研費報告書
4)千葉達朗(1986)粒度分布プログラムの開発−正規確率紙とR−R線図ー,日本第四紀学会講演要旨集,16,126-127.


関連リンク

陶野先生の略歴 地質調査技師講習会資料 ↓
http://www.tohoku-geo.ne.jp/information/daichi/img/33/27.pdf
山形大の記事 ↓
http://www.yamagata-u.ac.jp/topics/1903/Stouno.html
科研費データベース
http://kaken.nii.ac.jp/d/r/00016479.ja.html
デジタルブック 最新第四紀学
http://quaternary.jp/publication/hanbai-db.html