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火山ガス

1.4.5 火山ガス

火山ガスは、地下のマグマに溶けている揮発性成分が減圧によって分離し放出されたものである。圧力の低下割合が大きいと噴火に至るが、小さければ噴火を伴わない火山ガス放出がおきる。日本には110の活火山があるが、そのうち少なくとも54火山から常時火山ガスが放出されている。火山ガスの成分と濃度によっては、人体にとって有害である。

(1)火山ガスの種類

火山ガスの主成分は水蒸気(H2O)で、90%以上を占める。H2O以外の化学組成はその温度によって異なり、温度の高い火山ガスにはHF、HCl、SO2、H2、COなどが多く含まれ、温度の低い火山ガスではH2S、CO2、N2などが主成分となる。表-1.4.5.1に火山ガスの種類ごとの濃度と人体への危険性を示す。
表-1.4.5.1 火山ガスの種類と濃度による人体への影響

http://www.bousaihaku.com/bousaihaku2/images/B/kazansaigai/img/kg1_3_19.jpg
・二酸化硫黄(SO2)
二酸化硫黄は無色で刺激臭のある気体で、比重は 2.26(空気は 1)であり、空気よりも重い。呼吸器や眼、喉頭(ノド)などの粘膜を刺激し、高濃度の状態では呼吸が困難になることがある。また、ぜん息や心臓病などの疾患があると、健康な人が感じない低い濃度でも、発作を誘発したり症状を増悪させることがあるため注意が必要である。許容濃度は2ppmである。
硫化水素(H2 S)
硫化水素は、無色で、火山地帯や温泉などで卵の腐ったような臭いとして感じられる気体であり、比重は 1.19 で空気よりやや重い。0.06 ppm 程度の非常に低い濃度から臭気を感じるが、短時間で慣れにより臭気を感じなくなる。高濃度になると人体に影響を及ぼす。主な基準として、特定化学物質等障害予防規則や酸素欠乏症等防止規則で 10 ppmである。
・塩化水素(HCl)
塩化水素は無色、刺激臭のある気体で、比重は 1.27 で空気よりやや重い。低濃度でも目、皮膚、粘膜を刺激する。許容濃度として、日本産業衛生学会の天井値は 5 ppm である。
二酸化炭素(CO2)
二酸化炭素は、無色、無味、無臭の気体である。3 %以上で軽度の麻酔作用があり、7〜10%では酸素濃度が正常範囲でも数分で意識を失う。長期間の曝露限界は 1.5%程度と考えられる。バックグラウンド(通常の大気)の濃度が約 375 ppm程度であり、ビルなどの室内環境の基準は 1,000 ppm、ACGIHが定めたTLV-TWA 値は 5,000 ppm、短時間曝露限界値は 30,000 ppmである。


(2)火山ガス事故

1997年7月、青森県八甲田山でレンジャー訓練をしていた陸上自衛隊員20人が呼吸困難で倒れ、うち3人が死亡した。また、1か月後には、福島県安達太良山を登山中の50歳代の女性4人が沼の平近くの窪地で硫化水素ガス中毒でなくなった。また、阿蘇山では 喘息の持病を持つ観光客2名が、相次いで火山ガスで発作を起こし、その後亡くなった。これらの火山ガスの事故を契機に日本の各地の火山で火山ガス対策がとられるようになった。


(3)三宅島2000年噴火と亜硫酸ガス被害

三宅島2000年噴火は6月に始まり、 8月18日の最大規模のマグマ水蒸気爆発に続いて8月29日に火砕流が発生したことから、全島民は島外への避難を余儀なくされた。
その後、三宅島の中央に開いた雄山カルデラから、有害な二酸化硫黄などを含む火山ガスを、世界にも類を見ないほど大量に放出するようになった(図-1.4.5.1)。


図-1.4.5.1 気象庁による三宅島の火山ガス放出量の推移
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/320_Miyakejima/miyake_So2.gif

降下火山灰と火山ガスの影響で変色した三宅島東部(アジア航測撮影)

火山ガスの影響で立ち枯れた植林地

火山ガスの影響で朽ち果てたフェンス(2005年7月14日清水恵助撮影)

火山ガスの影響で錆びた自家用車(2005年7月14日清水恵助撮影)