赤色立体地図weblog

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赤色立体地図とその応用

測量「地図表現とその周辺」最終校正中

ことはじめ

2002年の夏、青木ヶ原樹海の調査の直前、わたしは、レーザ計測部門から届いた、1m等高線図の束(1/5000で50枚以上)を前に、途方に暮れていた。数日間の判読作業の結果、樹海の地形は想像していた以上に複雑で凹凸に富んでいることがわかった。火口以外にも溶岩トンネルや溶岩皺のつくる窪地が無数にあり、1mDEMから作成した等高線は、伸びきったゴムバンドのように見えた。また、等高線のそれぞれに高度は付記されていなかった。これでは、凹凸すらわからない。新発見はもとより、現在地の確認もおぼつかないから、ちゃんと帰れるかどうかも怪しい。新技術を利用した成果へのプレッシャーと、遭難への恐怖にかられながら、追い込まれていた。
腹をくくって、自分の欲しいものは自分で作ることにした。レーザ計測部門から膨大なDEMデータを取り寄せ、等高線以外の地形表現を試みることにした。従来の陰影段彩図では複雑すぎてよくわからなかった。そこで、さまざまな地形フィルタ画像を片っ端から作成し、カラー合成を繰り返した。その総当たりの中から、最後に見つけ出された、最も不気味な画像が、のちの「赤色立体地図」であった。原理は、それほど難しいものではなく、まさにコロンブスの卵であった。陰影図のような方向依存性もなく、回転させても立体感は崩れないし、さまざまなスケールで見ても違和感は少なかった。これはいけそうだと、マニュアルを作り数名で分担して、3日間かけて50枚の赤色立体地図を作成した。現地調査では、樹海の中でも周囲を10mほど見通せれば、現在地を推定できるほどの精度があった。その結果、数カ月間の調査で非常に多くの新発見をし、成果を挙げることができた。

原理

赤色立体地図は、急斜面ほどより赤くなるように調整した斜度画像と、尾根谷度に比例したグレイスケール画像を乗算合成して作成する。尾根谷度は、地上開度から地下開度を引いて2で割って求める値で、尾根ほど明るく谷ほど暗くなるように調整した。最初はどうして立体的に見えるのか皆目見当がつかなかったが、さまざまなCG関係の文献を読み、実験的な検討を加え、だんだん理屈がわかってきた。地上開度はCGで使用する環境光に近いパラメータのようである。しかし、CGでは地下開度に相当するパラメータは使用していない。地下からマイナスの光を与えたと、考えればよいということも分かった。斜度画像は、色さえあればどのような色でも立体感を生じるが、赤を用いた場合に、もっとも強い立体感を生じ、さらに微妙な傾斜変化を認識しやすいことがわかった。我々は、印刷して野外に持参し、夕暮れ迫る過酷な条件でも、立体的に捉え、現在位置を認識できる画像を欲している。そのため、最も強い立体感を生み出す赤色以外の選択はあり得なかった。気持ち悪いという意見もあったが、そこが重要なポイントだったのだ。

作成事例

それから13年、国内外の特許を取得するとともに、手法やプログラムを改良し、DEMの精度向上を図るとともに、地形表現に美術的な付加価値さえ付けられるようになってきた。以下に、最近の応用事例について紹介したい。
1)西之島

2013年11月から、噴火を再開した小笠原の西之島について、国土地理院の2.5mDEMから作成した画像である。噴火を続ける火砕丘と北の溶岩湧出孔を取り囲むように溶岩流が枝分かれしながら伸びている様子がよくわかる(図1)。
2)月の赤色立体地図

2007年、日本の人工衛星「かぐや」は、月を周回しながら高精度の写真撮影を行い、JAXA国立天文台によって、地形データが作成された。最近、国土地理院アジア航測では、1/20度メッシュDEMをもとに赤色立体地図表現を試みた。現在、国土地理院のwebページで閲覧できる。月の裏側のクレーターの重なりが見事に表現されている(図2)。
3)コナベ古墳

古墳は立ち入り禁止であることが多く、古墳形状研究上の課題となっていた。橿原考古学研究所アジア航測は、共同で精密レーザ計測を行った。0.5mDEMから作成した赤色立体地図で、古墳の美しい姿が浮びあがった(図3)。
4)模型表面への印刷

地形模型表面に赤色立体地図を正確に印刷することで、模型の立体感と赤色立体地図の立体感の相乗効果をねらった。模型に手でふれて地形を観察したり、液体を流すことで、溶岩流や土石流のモデル実験をしたり、砂を積み上げて、元地形の復元検討もできる(図4)。
5)石巻赤色立体地図

赤色立体地図に高度段彩を重ねると、平野部の微地形がわかりやすくなる(図5)。




図1 西之島の赤色立体地図
国土地理院による2014年2月16日計測の2.5mDEMから作成

図2 月の赤色立体地図 球面マッピング
JAXA国立天文台による1/20度DEMをもとに作成

図3 コナベ古墳のレーザ測量 左:オルソフォト、右:赤色立体地図
橿原考古学研究所アジア航測の共同研究による。ヘリコプターによる50㎝DEM

図4 赤色立体3D地図模型と大磐梯山復元実験
国交省阿賀川河川国道事務所作成(2013年活火山フォーラムにて)

図5 石巻の赤色立体地図
2012年8月のレーザ計測1mDEMから作成。海岸沿いの盛土は5mの高さがあったが、津波はそれを乗り越え、住宅密集地を襲った、木造住宅は流され台地の裾に堆積し炎に包まれた。この図では、津波被害と地形の関係を判りやすく調整をしている。海岸付近に震災瓦礫の山がみられる。このような図から、地形を理解することが、地域の防災力を強化、復興を後押しすると考え、TBSの協力も得て、自主作成したものである。