赤色立体地図weblog

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宮地直道さん

日本大学文理学部の宮地さんが亡くなってからもう2年半になる。ようやく、何かかかけそうな気がしてきた。1957年3月生まれだったので、54歳だった。とても惜しい人をなくしてしまった。
宮地さんは、日大の文理学部応用地学科に1976年に入学され、その後、日本大学大学院理工学研究科地理学専攻の博士前期課程・後期課程と進まれ、1986年に博士号を取得している。わたしは、1975年入学なので、彼の1年先輩ということになる。ともに、遠藤邦彦教授の研究室で学んで、穴を掘ったり噴火に遭遇したりいろいろなことをいっしょにやった。よき研究仲間であり、越え難い優秀ななライバルであり、そして友人だった。ただ、お互いの研究スタイルはだいぶ違っていた。おなじ露頭を前にしても、調査手法や発想が違うので、結論も違うことも多かった。違うタイプの人間が一緒にやるのは、ものごとの本質をあぶりだすやり方としては、よかったのかもしれない。かれの人となりを記録しておくのにふさわしい、いくつかのエピソードを紹介したい。



伊豆大島の調査

1986年11月21日、私は宮地さんや遠藤先生とともに、特別の許可を得てカルデラ内に立ち入り、19日に流れたばかりの溶岩流の調査を行っていた。
目の前で割れ目噴火が発生した。その瞬間、一番近くにいたのは宮地さんだった。その時に撮影した写真がこれである(写真1)。

雲仙岳噴火

雲仙は1990年11月17日に197年ぶりに噴火を始めた、最初は普賢岳の頂上にある地獄跡火口からの水蒸気爆発であったが、徐々にマグマ性に変化し、やがて火口周辺に降下した細粒火山灰の影響で土石流が発生するようになってきた。そして5月20日、地獄跡火口からマグマそのものが頭を出した。溶岩ドームの成長の始まりだった。山の上の急斜面の縁にある小さな火口から1日あたり30万立方メートルのマグマが出始めたのだ。しかも、このマグマは粘性が高かったから、溶岩流となって流れ出すことはなく、溶岩ドームとして不安定な山頂にどんどん成長をはじめた。やがて火口を覆い尽くした溶岩は、斜面の上部に不安定な形で乗る状態となった。5月26日、その一部が崩壊し、下流側の斜面の谷底に入って大きな噴煙を上げながら走った。これが最初の火砕流であった。
この溶岩ドームの成長速度を計測することが、すなわちマグマ噴出レートに他ならず、写真測量による計測が行われた。当初は水無川に上流部の深い谷を埋め立ていたので、空中写真測量で作成された、等高線図をもとに断面図を作成し、三角柱を積算して求めた。溶岩ドームが崩壊すると火砕流となって斜面を流下する。その際に、岩石の中の微細な気泡内部の高圧の火山ガスが次々に爆発して大きな噴煙を上げるのだ、これはまさに火砕流に他ならなかった。火砕流となって堆積した溶岩ドームは、粉砕されており、粒子同士の間には空隙が損際した。ドームの崩壊量を1とすると、堆積した火砕流堆積物は約1.5となることが経験的に明らかとなった。このため、地形変化量=マグマ噴出量ではなく、溶岩ドーム成長量+
火砕流堆積物の増加量*0.6がマグマ噴出量ということになる。空中写真測量には誤差がある。特に、現地が危険で立ち入れないこと、新しく火砕流が堆積した谷は、発生前には樹木で覆われていたので、噴火前の地形面の高さには、樹木の高さ分を差し引く際の誤差が含まれている。この誤差は、斜面傾斜が急である場合には、きわめて大きくなり、3m以上堆積していないと、正確な値を求めることができないという状況であった。現在では、航空レーザー計測を行うことができるので、それほどの誤差はでないが、樹木で覆われた地形の噴火前のレーザー地形測量が行われていなれば同じ問題に直面することになる。
したがって、計測間隔を空けるほど、地形変化量が大きく、S/Nがよくなり、結果的に測定精度がよくなると言うジレンマが生じることになった。

古道

富士山の裾野に広がる樹海の中に古い道の痕跡があるのを、航空レーザー計測と赤色立体地図で発見した。河口湖畔にあった大石という宿から白糸の滝付近をむすぶ古道「若彦路」ではないかと思われる。詳しい内容は、12月4日の日曜日、日本大学文理学部で開催される「富士学会のシンポジウム」で紹介する予定。

石巻から東京へ神田から渋谷へ

 宮城県石巻で生まれ育った。そして18歳で上京した。市内に大学はなく、進学するには、遠く離れた都会の大学にいくしかなかった。本屋さんのブルーバックスの中が、優れた知性との接点だった。東京には、仙台の大きい本屋さんよりも、もっと大きな本屋さんがあって、神田といういうところには、本屋さんだけの町があると聞いて、どきどきしていた。

 だから、大学入試のために東京に行ったとき、最大関心時は「神田の古本屋街」だった。そこに、行きたいと思って、国電の神田駅で降りて交番で尋ねた。おまわりさんは、信号の数で13個先の交差点のあたりだと、西の彼方を指して引っ込んでしまった。西に進んではみたものの、交差点ごとに信号が4つもあって混乱し、3つ先の交差点でうろうろしたりした。

 それでもなんとか、三省堂書店という大きな本屋さんに着き、夢の世界にいったように興奮して帰ってきた。その本屋さんには、1/2.5万地形図がいっぱいあるコーナーがあって、日本中のすべての地形図がそろっていたのだ。大学に入学してから、まっさきにその本屋さんに行って、1/2.5万地形図を東京都区内を全部揃えて、繋ぎ合わせて1枚にした。

 まだ、何もないアパートは、つなぎ合わせた地形図の等高線を赤い水性ペンでなぞるためには、ちょうどいい広さだった。これは、実にわかりにくいのだが、とても楽しい作業でもあった。そして、すべての等高線がつながったとき、いろいろな発見があった。

 たとえば、地下鉄銀座線渋谷駅のホームが、ビルの3階にあるという謎を解き明かした。銀座線の隣の駅は、表参道、その先は外苑前、青山一丁目と続く。よくよく漢字を見れば渋谷には「谷」という字があり、青山には「山」という字がある。なんのことはない。地下鉄銀座線は青山から渋谷まで水平に走っているだけだったのである。かように山の手台地はでこぼこしているのである。

 その発見を、1年生の最初の自己紹介で話した。日大文理学部の応用地学科の1年生の教室で、東北から出てきたばかりの少年の話はそれは大受けした。ブラタモリもない頃で、新鮮だったのだ。周りに人だかりができて、いっぺんにたくさんの友達ができた。これが、わたしの大学生活の始まりだった。。

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ようやく、増補改訂版が出ます

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千葉 達朗 (大型本 - 2011/8/25) 新品: ¥ 1,974
近日発売 予約可。 この商品は2011/8/25に発売予定です。

表紙の「赤い」のは私の指定ではありません(念のため)


2006年の本を増刷しようということになり
前のほうに8ページの今回の津波を受けたページを追加しました
あとは、図の差し替えはありません。

それと 活火山の数  108-> 110 当該箇所の修正
    活断層の数   98-> 110 インデックスマップに追加
字句修正   「岩屑流」 -> 「岩屑なだれ」 など

地理院の使用許諾番号の更新(3年で自動的に消滅するので)

赤色立体地図でみる日本の凸凹 

赤色立体地図でみる日本の凸凹 

ながらく 版元切れ 絶版でしたが 
このたび 8ページの津波関係の簡単な特集を増補し
144ページだての改訂版を出版することになりました

以前の版を持っている人は、後半ほとんど同じなので
がっかりするかもしれないと心配しています

それでも 活火山の数を108から110に修正し
活断層リストも98から110(同じ)に修正しました
また、新燃岳2011の噴火にもすこし触れています

ほかにも字句修正をいろいろ・・

津波は難しい・・